「名前の由来は何?」と尋ねた幼かった私は「名前の由来なんてないから」即答された。
真冬の寒い日、お見合いで結ばれた1組の夫婦のもとに女の子が産まれた。
夫婦とは私の父、母、そして女の子とは私のことだ。
産まれたばかりの私はすでに髪の毛がふさふさしていて、眉もしっかりとしていた。
他の赤ちゃんと比べても、一瞬で「この子が自分の子」と分かったと両親は言っていた。
祖父母にとっても初孫だった私の誕生はとても喜ばれた。
両親ははじめての子供である私の名前を何にするか悩んだ。
女の子らしい、やわらかみのある名前にしたかったらしい。
しかし「何の名前にするか?」ということについて悩む必要は一瞬でなくなった。
父方の祖父が独断で私の名前を決め、役所に提出したのだ。
「名前」というものはその子がどのような人になって欲しいか、などといった想いが込められていることが多いであろう。
しかし、祖父は「名前に糸へんを付けたい」それだけの理由で私の名前を決めた。
のちに聞いたのだが、名前に込められた意味、将来このような人になって欲しい…などといった想いは全くなかったらしい。
なのでよく学校である「名前の由来について聞いてくる」などといった宿題では、「あなたの名前の由来なんてないんだから、適当に自分で決めなさい」と毎回言われた。
こうして「私」という1人の女の子が産まれ、名前を付けられ、これから先自分というものを失い生きていくこととなるのであった。